恋する危険地帯

18歳ヒバリ×25歳ディーノ♀。ディーノ女体化なので御注意下さい。
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1



 小高い場所に立っているボンゴレのアジト。
 厳重に警備された城だが、ディーノは毎回顔パスで通してもらっている。
 ボンゴレとは親しい仲なのだ。城に入ると、細身の青年が出迎えてくれた。

「元気そうだな、ツナ」
「ディーノさん、お久しぶりです」

 十七歳になったツナはすっかり大人びて、スーツを自然に着こなしていた。
 ふざけて髪をかき回してやると、「やめて下さいよ」と苦笑する。

「何か珍しいですね、ディーノさんがスカートはいてるのって」

 ディーノは頭をかいた。ツナの言う通り、滅多にスカートをはくことはない。
 正装する時くらいなのだ。

「男みたいな服しか持ってないのかって、恭弥にバカにされちまってさ。今日は女っぽく
してみたんだけど……変か?」
「すごく似合ってますよ」

 ほっと胸を撫で下ろす。まあ、変だと言われたところで、今更着替えるわけにもいかないが。

「ヒバリさんなら、書斎にいると思います」
「そっか。サンキュ」

 馴染みの場所だから、案内など必要ない。ディーノはまっすぐ書斎に向かった。


×××


「恭弥、いるか?」

 そう呼びかけると、棚の陰からヒバリが姿を見せた。赤い背表紙の、分厚い本を持っている。

「……どうしたの、その足」
「え?」

 スカートから伸びる白い足には、特に異常はない。
 戸惑っていると、「分からないならいい」とヒバリが溜息をついた。
 部屋の奥には革張りの椅子がある。ヒバリが腰掛けたので、ディーノもその隣りに座った。

「なあ、ヒマなら今日、ジェラート食べに行こうぜ。ていうかオゴってくれよ」
「何で」
「何でってお前……今日はホワイトデーだぞ。バレンタインのお返し、してくれてもいいだろ?」

 どうせ忘れているだろうと、ディーノの方から誘いに来たのである。
 すると、ヒバリは胸元から小さな箱を取り出し、ディーノにそれを投げて寄越した。
 キャッチしようとしたが失敗し、コツンと額にぶつかる。

「あいたっ……何だこれ?」
「あげるよ」

 ホワイトデー用に、ちゃんと買っておいてくれたらしい。
 包装を剥がすと、ベルベットのケースが現れた。中にはシンプルなデザインの指輪が一つ。
 ディーノは大きく目を見開いた。

「恭弥……これ……」

 ヒバリは微笑して、「ジェラートの方が良かったみたいだけど」とからかうように言った。

「そんなことねーって! ……ありがとな、大事にする」

 嬉しくて、掌の上で転がしてみる。横から取り上げられて、指にきちんと嵌め込まれた。



 スッとヒバリが立ち上がる。何か、仕事でもあるのだろうか。ディーノは顔を曇らせた。

「どっか行くのか?」
「ジェラートを食べに行くんじゃなかったの?」

 ヒバリは呆れた表情で、さっさと先に行ってしまった。
 数秒固まってから、ディーノは後を追いかけた。優しいくせに素気ない、そんな所も好き。
 ――やっぱり、ジェラートはオレがオゴってやるよ。










2



 居間の戸を開けると、ツナがコーヒーを淹れているところだった。
 ヒバリが入ってきたのを見て、彼は作業を中断した。

「ヒバリさん! お疲れ様です」

 無言で書類を手渡した。用も済んだことだし、さっさと帰りたい。
 群れるのが嫌いなヒバリは、郊外に部屋を借りている。アジトに長居する理由はなかった。



「そーいや今夜、ディーノは同盟ファミリーの連中と飲み会らしいぞ」

 リボーンが話しかけてきた。わざと興味なさそうに、「ふうん」とだけ答える。

「妙な男に狙われてねーといいけどな」

 流石に、これは聞き捨てならない。ヒバリは勢いよく振り向いた。
 平然として、リボーンはカップを傾けている。ツナが怪訝そうな顔をした。

「何言ってんだよ、妙な男って……。同盟ファミリーと親しくするのは、別に問題ないだろ?」
「お前は甘いな。ディーノと独自に手を結ぼうとする奴がいれば、お前らにとって脅威になるぞ」

 ディーノ率いるキャバッローネは、何かとボンゴレに貢献している。
 彼女は重要なコネだ。他のファミリーに奪われるのはマズい。リボーンは淡々と語った。

「キャバッローネの力を狙って、ディーノに近付く奴は多いんだ。それでなくても美人だしな」

 ヒバリはしばらく沈黙してから、店の場所を尋ねた。リボーンはニヤリと笑った。


×××


 表の看板を確認してから、一軒の酒場に入った。中では、男たちが陽気に騒いでいる。
 何だかムカムカして、ヒバリは顔をしかめた。

「あっ、恭弥だ」

 奥の席から、ディーノが駆け寄ってきた。ワインのボトルを抱えて、御満悦の表情だ。

「一緒に飲むか?」
「いらない。迎えに来ただけだから」

 まだ帰りたくないと言われたら、引きずってでも連れて帰るつもりだった。
 しかし、予想に反して、ディーノは嬉しそうに笑った。
 皆の方に向き直り、「オレ、先に帰る!」と宣言する。二人一緒に店を出た。



 ディーノはかなり酔っているらしく、フラフラとした足取りだった。
 マフィアのボスが、こうも無防備でいいのだろうか。本気で疑問に思う。

「弱いって分かってるなら、もう酒飲むのやめなよ」
「そうもいかねーだろ、付き合いってもんがあるし……」

 苦笑しながら、ディーノは左手を夜空にかざした。金属がきらりと光沢を放つ。
 先日渡した指輪だった。ヒバリ自身が、彼女の薬指に嵌め込んだもの。
 その後もずっと、同じ指に嵌め続けていたらしい。

「この指輪してるせいか、既婚者かって訊いてくる奴いるんだぜ。可笑しいだろ」

 どこの誰に迫られたのだろう。気になるが、どうせディーノは覚えてなさそうだ。

「で、何て答えたの?」
「秘密って言ってやった。あー、楽しかった!」

 人がどれだけ心配したかも知らないで、いい気なものだ。
 金髪にそっとキスを落とした。ディーノはくすぐったそうに首をすくめた。










3



 執務室にノックの音が響いた。書類確認に追われていたディーノは、溜息をつきつつ顔を上げた。

「ボス、恭弥が来てるぜ」

 入ってくるなり、ロマーリオがそう告げる。ディーノは驚いて、目を瞬かせた。
 会う約束などしていただろうか。少し考えてから、あることに思い当たる。

「……ああ、出張から帰って来たんだな」

 ヒバリは出張帰りに、ディーノの所に立ち寄る習慣があった。
 久々に恋人の家で、羽根を伸ばしたいのだろう。あれでなかなか、彼も可愛い所がある。

「あと少し済ませてから行く。先に、部屋に通しといてくれ」
「……大丈夫か? 明日の会議」

 いかにも心配そうに言うので、ディーノは思わず噴き出した。

「もちろん。とっくに準備できてるぜ」
「いや、そういうことじゃなくてな」

 ロマーリオはいつになく、歯切れの悪い口ぶりだった。


×××


 すぐに自室に向かった。扉を開けたが、一瞬ヒバリがどこにいるのか分からなかった。
 よく見れば、ベッドに腰掛けている。天蓋の陰になって、視界に入らなかったのだ。

「お帰り恭弥。今回の仕事はどうだった?」
「別に。いつも通り退屈だったよ」

 言葉とは裏腹に、目にはうっすらとクマがある。疲れた表情が、いつもと違って色っぽい。

「ちゃんと、ボンゴレに報告してきたか?」

 ヒバリは一言、「してない」と答えた。
 半ば予想はしていたが、ディーノは苦笑を隠せなかった。

「仕方ない奴だな……。オレから、ツナに電話してやるよ」

 そう言って電話帳を探る。すると、何を思ったか、ヒバリにケータイを取り上げられた。

「こら、返せって」
「僕がここにいるのに、他の男と話なんかさせない」

 真剣な表情で、そんなことを言う。ヒバリはそのまま、ケータイをベッドの端に放りやった。
 ゆっくり押し倒されながら、唇を重ねる。もう邪魔するものはないとばかりに、深く、深く。
 微かに震えながら、甘い感触を貪った。ヒバリの手がそっと、ディーノのシャツを捲り上げる。

「うわあっ!」

 咄嗟にその手を払いのけた。ヒバリは不満そうに「色気がない」と文句を言った。

「突然こんなことされたら、驚くに決まってるだろ!」

 ヒバリは「今更?」と呆れて、取り合おうともしない。
 ブラジャーのレースを撫でられて、ディーノはいよいよ赤面した。

「ダメだってば、恭弥……!」

 恨みがましく睨んでくる。流されるまいと、殊更に目を逸らした。

「明日は朝から会議なんだよ。……だから、勘弁」
「嫌なら本気で逃げれば? 逃げられればの話だけど」

 ――拒んだところで、平穏な夜は過ごせそうにない。万事休すである。
 ディーノは頭を切り替えた。同じことなら、ヒバリの機嫌を損ねないよう、努めた方が懸命だ。
 彼の頬に口付けて、「手加減しろよ」と囁く。

「諦めが早いね」
「恭弥に嫌われたくねーからな」
「……それ、本気で言ってるの?」

 ヒバリは静かに、ディーノの唇を甘噛みした。










4



 久々に、ボンゴレのアジトに呼び出された。緊急の用事でもあるのだろう。
 ヒバリは特に急ぐでもなく、城の庭内を闊歩していた。小道の向こうから見慣れた金髪が
 近付いてきたので、ふと足を止める。

「あ、恭弥……」

 蕩けるようなハチミツ色の髪。既に馴染みの色だが、ヒバリは一瞬それに見惚れた。
 微笑んだ彼女は、少し鼻声だった。

「こんな所で何してるの?」
「ちょっと野暮用でな」

 そう言いながら、ディーノは額にやたらと汗をかいている。とろんとした目でしきりに瞬きした。

「何だか具合悪そうだけど」
「二、三日前から風邪ひいてるんだ」

 よく気付いたな、とディーノは感心したように言った。
 あなた以外だったら有り得ないよ、と言いたい気がしたが、胸の内に留める。

「夏風邪は馬鹿しかひかないって言うよね」
「ちぇ、他人事だと思って……」

 ヒバリは黙って、ディーノの額に触れてみた。思ったよりもさらに熱い。
 ディーノが気まずそうに身をよじったので、あっさり手を放す。

「ほっつき歩いてないで、早く帰りなよ。……熱がある」

 すると、ディーノは子供のように、「バレたか」と言って笑った。
 ヒバリからすれば笑い事ではない。こんな体調で出歩くなんて、危なっかしいにも程がある。

「でも別に、遊び回ってたわけじゃないんだぜ。医者に診てもらいに来たんだ」
「本当かな」
「本当だって。シャマルに診察してもらおうと……」
「却下!」

 最後まで言わせず、ヒバリはディーノの言葉を遮った。

「何だよいきなり、却下って」
「あなたこそ何考えてるの? あんな変態に、体をベタベタ触らせるつもり?」
「まあ、シャマルは女好きだけど、腕は確かだし……」

 天然というか何というか、こういう面に対しては、彼女は危機感が極めて低い。
 だから放っとけないんだ、と密かに溜息をつく。

「とにかく、駄目なものは駄目。ほら、帰るよ」

 腕を引っ張ったが、ディーノは「でも……」と言ってためらった。
 やはり、体がだるいのだろう。心なしか不安げに、鼻をスンスン言わせている。
 ヒバリは彼女の金髪を撫でてから、徐に横抱きにして抱え上げた。
 うわっ、と間抜けな悲鳴が上がる。

「僕があなたを看病する。食事も作るし、寝る時は腕枕してあげる。それで文句ある?」

 ディーノはうっすらと頬を染めて、首を横に振った。
 その反応に満足して、ヒバリは額にキスを落とす。すると、ディーノが物問いたげに顔を上げた。

「……でもお前、仕事は?」

 言われて初めて、ボンゴレからの呼び出しの件を思い出した。
 ヒバリは爽やかに微笑んで、後で電話でも入れておけばいいよ、と囁いた。










5



 バラの香りに包まれる。階下では賑やかな声が聞こえていた。
 ボンゴレ主催のクリスマスパーティーだ。ディーノは靴を脱いで、ベッドに身を沈めた。
 足が痛くなったので、個室で休むことにしたのだ。ヒールなんて履くもんじゃない。
 不意にノックの音がした。裸足のまま渋々と起き上がる。

「ディーノ様でいらっしゃいますか? お届け物です」

 配達員が差し出したのは、バラの花束だった。ちょっと疲れを覚えつつも、笑顔で受け取る。
 彼が出て行くのと入れ違いに、今度はツナがやって来た。人込みに辟易して、こっそり抜け出して
 きたという。主役のくせに困った奴だ。ディーノは苦笑して彼を迎え入れた。

「それ、ヒバリさんからでしょう?」

 ツナは花束を見て、からかうように言った。頷いて、クローゼットの前を指差す。
 そこには既に、埋もれんばかりのバラがあった。流石にツナも唖然とした表情になる。

「……ひっきりなしに送ってくるんだ」
「ね、熱烈ですね……」
「いや……多分アイツ、怒ってんだと思う。オレが我侭言ったから……」

 ディーノは八個目の花束を腕に抱いて、すとんとベッドに腰掛けた。



「クリスマスプレゼント、指輪やることにしたから」

 先週の日曜日。久々に会ったついでにそう告げると、ヒバリは変な顔をした。

「それって僕に?」
「他に誰がいるんだよ」

 すると、今度はあからさまに呆れた様子でこちらを見つめてくる。

「そういうのって普通、本人に言わないと思うけど」
「だって、あらかじめ言っとかないと、突き返されたら困るし」

 何せ、あのボンゴレリングですら受け取りを拒否した男だ。可能性は十分ある。
 しかし、ヒバリは目を伏せて「……そんなことしないよ」と呟いた。

「じゃあ僕も訊くけど、あなたはプレゼント何がいい?」
「え? えっと……」

 急な問いかけに、ディーノは戸惑った。――今、欲しい物なんてあったっけ。
 彼がくれる物なら何でもいいのだが、そんな曖昧な答えでは怒らせるだけだろう。
 しばらく考えていたが、ぱっと思い付いて「花束が欲しい」と答えた。

「真っ赤なバラの花束!」
「ベタすぎ……」
「でも、買ってきてくれるだろ?」

 わざと甘えた声で言ってみる。そんな物を買うなんて、ある意味恥ずかしいに違いない。
 少しだけ、クールな彼を困らせてやりたかったのだ。



 ディーノの悪戯心を敏感に察して、ヒバリもムキになったのだろう。これでもかとばかりに
 バラを送り付けてくる。怒ってんだろーな、と呟くと、ツナは小刻みに肩を震わせた。

「笑うなよ……人が悩んでんのに」
「すみません」

 謝ったものの、ツナはまだクスクスと笑い続けている。全く、笑い事じゃないというのに。
 ディーノがここにいるのを知っていながら、本人は未だに姿を見せてくれないのだ。

「恭弥、来てくれないのかな……」

 そんなのって寂しい。深々と溜息をつく。――怒らせるようなこと、言うんじゃなかった。
 ツナは優しい目をして聞いていたが、ふとドアの方を振り向いた。
「やあ」とさり気なく言って、ヒバリが中に入ってくる。

「オレ、そろそろ戻りますね」

 微笑して、ツナは去っていった。戸の閉まる音がする。
 ヒバリは九個目の花束を抱えていたが、クローゼットの前に放り出してから振り向いた。

「花束はこれで足りた?」

 不敵な笑みだった。ディーノは「バカ……」と囁いて、ヒバリの肩に飛び付いた。
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