ツナ獄♀・獄女体化なので御注意下さい。
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6
「はー、寒い……」
アジトへの帰り道、ツナは震えながら白い息を吐いた。時刻は午前零時を回っている。
マフィア関係者のパーティーが開かれるとかで、次期ボンゴレとして出席する破目になったのだ。
万事和やかな集まりだったとはいえ、慣れない雰囲気に疲れてしまった。
リボーンに強制されなければ、行く気なんてさらさらなかったのに。
「ハヤトもゴメン、付き合わせて」
隣りを歩いていたハヤトは「いえ、そんな」と笑って、ステップを踏むように
その場でくるっと回ってみせた。
(いつになくハイテンションだな……)
よく見れば、顔もうっすら上気している。
……誰だ、未成年にカクテルなんか飲ませた奴は。とりあえず、見なかったことにしておこう。
ネオンサインに照らされて、二人の影は四方に伸びた。
「それにしても、すっかり遅くなっちゃったね」
「そうですね。空が真っ黒」
ふと、ハヤトが立ち止まる。
「星が見えない……街の光が明る過ぎるんですかね」
遥か上空を見上げ、目を細めるハヤト。その切なげな表情に、胸が高鳴るのを感じた。
「ハヤトは星が好きなんだ」
すると、はにかんだ笑顔で、ハヤトは南の空を指差した。
「本当ならあの辺に、冬の大三角が見えるはずなんです」
「冬の大三角?」
「ええ。プロキオンとシリウスと、ベテルギュース……」
説明しながら、暗闇に大きな三角形を描く。
「いつか……」
途中まで言いかけて、ツナは言葉を切った。
「どうしたんですか、10代目?」
「……ううん、何でもない」
いつか、星のたくさん見える場所に連れてってあげる。そう言おうとした。
でも多分、彼女の澄みきった瞳には見えているのだ。
都会の空の向こう側に、燦然と輝く星々が。
「そういえばオレ、まだ流れ星って見たことないや」
丁度バスが通りかかったが、もうそれほど距離もないと、最後まで徒歩で行くことにした。
やや遅れてハヤトが、「そうなんですか?」と相槌を打つ。
「じゃあ、次の流星群が狙い目ですね。いつだったかな……」
綺麗な子だと思う。いつもまっすぐに、目指すものだけを見つめている。
守りたいというのは、ツナのエゴかもしれない。
側に寄って肩を抱く。案の定驚いた顔をされたが、体温は確かに伝わり合った。
「オレ、やっぱりハヤトが好きだよ」
この気持ちだけ捧げるから。どこまでも一緒にいて。
7
屋敷中の窓が激しく揺れる。外では、昨晩到来した嵐が猛威を振るっていた。
ハヤトは居間のソファーに体操座りして、ラジオの音に耳をすませた。
警報がいくつも出ている。電源を切って立ち上がったところに、丁度ツナがやって来た。
「やっぱり、今日は一日荒れるらしいです」
「そうみたいだね。ハヤトも、部屋の鎧戸を閉めた方がいいよ」
確かに、ガラスが割れでもしたら大変だ。ハヤトは慌てて階段を上った。
幸い、自室の窓には今のところ異常はなかった。素早く戸締りする。
(そういえば、屋根裏部屋は?)
物置となっていて、あまり出入りすることのない屋根裏だが、高窓が一つあったのを覚えている。
こっちも、鎧戸を閉めておくべきだろう。ハヤトは廊下の隅の、小さな扉を押し開けた。
狭い通路を進み、梯子を登る。薄暗い場所だった。古い書物がいくつも積み上げられている。
本の山を崩さないよう注意しながら、高窓の下へと進み出た。
絵の具で描いたかのような黒雲が、低く唸りを上げる。見ていると何故か心が弾んだ。
「こんな所にいたんだ」
振り向くと、そこにはツナの姿があった。
「何してるの?」
「戸締りしようと思って来たんですが、その……空を見てました」
すると、ツナは瞬きをして窓の所に近寄ってきた。
軽く肩が触れ合う。先程とは別の意味で、胸が高鳴るのを感じた。
「本当だ、ここからだとよく見える」
外の風景は、映画にも似た雰囲気を醸し出していた。すごい迫力だね、とツナが呟く。
「雷が鳴るかもって、ラジオで言ってましたよ」
「ハヤト、怖くない?」
少し考えてから、ハヤトは首を横に振った。
「怖くはないです。何だかワクワクします」
言った後で、ハヤトは後悔した。これではまるで子供みたいだ。
しかし、ツナは呆れるでもなく楽しげに笑った。
「俺もちょっと分かるよ。嵐の日は学校休みになるし、特別な感じがするよね」
高窓が大きな音を立てた。びくりとして、ツナが急いで鎧戸を閉める。
途端に部屋が真っ暗になり、ハヤトは手探りで電気を点けた。
「……結構揺れましたよね」
「うん、実はヤバかったのかも……」
二人は顔を見合わせた。窓はまだ小刻みに揺れていて、思わず噴き出してしまった。
笑いごとでないのは分かっているけれど。
「ハヤトー、どこにいるの?」
階下からビアンキの呼ぶ声が聞こえた。答えようとしたが、ツナに口をふさがれる。
「もう少しだけ、隠れてようよ」
悪戯っぽい顔で囁かれて、ハヤトはクスクスと笑った。
少しだけスリリングで、秘密基地にはぴったりだ。一緒にいたいと素直に思えた。
8
この数日、デスクワークに追われていた。もともと睡眠時間が削られている上に、この暑さ。
夜は寝苦しいし、昼はなおさら過ごしにくい。ツナはかつてないほどイライラしていた。
リビングに書類を持ち込んで唸っていると、台所からハヤトが姿を現した。
「10代目……いらっしゃったんですか」
「いたら悪い?」
つい、嫌味な口調になってしまう。ハヤトは「そんな意味じゃ……!」と言って真っ赤になった。
ふと見ると、左手にたくさん切り傷ができている。ツナは眉をひそめた。
「どうしたの、その怪我」
「あ……これは何でもないです」
「へえ、ハヤトはオレに隠し事するんだ」
ハヤトの澄んだ瞳が、傷付いたように揺らぐ。彼女はためらいながら、細い声で「ちょっと、
包丁で切ったんです……」と白状した。
「いちいち怪我するくらいなら、料理なんかやめれば? 向いてないんじゃないの?」
一方的に当り散らしている自覚はあったし、罪悪感もあった。でも、勢いで言ってしまったのだ。
ハヤトはかわいそうに、青い顔で震えていた。瞬きした瞬間、涙がぽろりと零れる。
流石にツナもびくっとして、謝ろうと口を開いた。
が、それより早く、ハヤトはリビングから走り去ってしまった。
(オレ、何であんな……ハヤトは何も悪くないのに……)
彼女の泣き顔を見て、ツナは酷く動揺した。しかも、泣かせたのが自分とは。
謝りに行く前に、心の準備が必要だった。
×××
ハヤトの部屋の前に立って、ツナは数回深呼吸をした。――何と言って謝ればいいだろう。
あれこれ考えていると、部屋の中からすすり泣く声が聞こえてきた。
「も……ダメっ……オレなんか、料理もできないしっ、10代目にふさわしくない……っ」
ずきんと胸が痛む。彼女は元々、料理が苦手なのがコンプレックスだったのだ。
意図していなかったとはいえ、ツナの言葉が傷口をえぐったに違いない。
「ツナのために、隠れて練習するんでしょ? 私が教えたげるから、何も心配いらないわ」
優しく言ったのはビアンキだ。ハヤトを慰めに来ているらしい。
自称料理名人の彼女は、妹をたいそう可愛がっていた。
「だって、向いてないって、10代目に言われたんだっ……うっ……」
「そうだったの……ろくでもない男ね」
にわかに、ビアンキの声が怒気を帯びる。妹を泣かせたツナのことが許せないのだろう。
「泣かなくていいのよ。ツナは私が殺してあげる。アンタは早く、新しい愛を見つけなさい」
ドアの前で、ツナは硬直した。すすり泣きがいっそう大きくなる。
ダメ、ダメと繰り返し言って、ハヤトはただ泣き続けた。
「じゅ、だいめに……きらわれたっ……」
それ以上は聞いていられなかった。ツナは勢いよくドアを開けた。
ビアンキがすごい顔でにらんでるし、何と言って謝るかもまだ決めてないけれど、構わない。
何度でもごめんと、ハヤトがまた笑ってくれるまで謝るだけだ。
――傷付けてごめん。泣かせてごめん。愛してるのに、本当にごめんね。
9
お気に入りのマフラーを巻いて、こっそりアジトを抜け出した。マーケットから大通りに出る。
角を曲がった雑貨屋の前で、ハヤトは立ち止まった。――なくなってたらどうしよう。
恐る恐る、ショーウィンドウを覗き込む。
「よかった……」
目当ての懐中時計は、相変わらず同じ場所にあった。ほっとして、思わず笑顔になる。
「ツナへのプレゼントか?」
ハヤトはびっくりして振り向いた。いつの間にか、リボーンが側に立っていたのだ。
流石は殺し屋、気配を全く感じさせない。いつから尾行されていたのだろう。
「あの時計だな。買うのか?」
「いえ……。今はまだ、お金が無いんです」
クリスマスまでには買おうと思う。ごてごてした飾りのない、シンプルな銀時計だった。
表面には、綺麗な曲線模様が彫られている。一目見て、ツナにぴったりだと感じたのだ。
「いつも良くして下さる御礼に、何か差し上げたくて」
「お前がやる物なら、ツナは何でも喜ぶぞ」
リボーンはあっさりそう言った。とくん、と胸が熱くなる。
「ところでお前、ツナの子供は産めそーか?」
一瞬、何の話か分からなかった。言葉の意味を理解して、途端に真っ赤になる。
「ななな何言い出すんですかっ、リボーンさん!?」
「声がでけーぞ」
落ち着き払っているリボーンの横で、ハヤトは口をぱくぱくさせた。
だって、子供を産むというのは、要するに……そういうことで。
「その調子じゃ、ツナはまだ手出してねーんだな」
「手出しって、その……」
「落ち着け。大事な話だぞ」
リボーンに言われて、へなへなとその場に座り込む。
「ツナの子を産めば、お前は実家とボンゴレと、両方に貢献することになるんだ」
確かに、それはその通りだった。元々それが目的で、ボンゴレに送り込まれてきたのだ。
しかし、ツナは優しくハヤトを可愛がって、行為を強制しなかった。
彼はどうも、ハヤトを愛人という目で見ていないらしく、驚くほど大切にしてくれる。
その優しさに包まれて、出産云々なんてすっかり忘れていた。
「好き合ってんなら、話は簡単だぞ。パジャマの上だけ着て、ツナのベッドで寝てりゃいい」
「そんな事したら、変な奴だって思われますよ!」
「安心しろ、お前は十分変だ」
これは心外だった。気付けば、通りで騒いでいたせいか、軽く周囲の注目を浴びている。
「こんな所で何やってんだ?」
「じゅ、10代目……!」
偶然通りかかったと言って、ひょっこりツナが現れた。雑貨屋の看板を見上げて、ふと微笑する。
「欲しい物でもあるの? 買ってあげようか」
ハヤトは「違うんです!」と首を振った。でも、本当のことは話せない。
しばらく内緒にしておかなければ。
「……クリスマスまで、待ってて下さい」
「え?」
ツナが不思議そうな顔をする。リボーンはニヤリと笑って「どっちの話だ?」とからかう。
「と、時計の方です!」
赤くなりながらもそう答えた。ツナはますます首を傾げた。