19歳ツナ×9歳獄。仔獄を皆で可愛がる話。
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ここらで一段落して、お茶の時間にしよう。ツナは伸びをしながら立ち上がった。
朝から事務にかかりきりで、腕がダルい。少しくらい休んだってバチは当たらないはずだ。
廊下に出たツナは、部屋との温度差に身震いをした。見れば、窓の外にはちらちらと
雪が降っている。このまま積もったら、歩きにくいし街は渋滞するし何かと厄介だ。
いや、隼人は喜ぶだろうが。雪遊びする彼の姿を想像すると、不思議と優しい気持ちになった。
ちょっと顔を見てこようか。気分転換にもなるだろうと思い、リビングに向かう。
ドアを開けようとしているその時、ちょうど山本もやって来て、二人同時に中に入った。
「ケーキ屋の広告が入ってたぜ。もう、クリスマスの予約する時季だもんなー」
山本はそう言って、ソファーで読書している隼人の肩を叩いた。
「ほら、隼人はこの中でどれが食いたい?」
なかなか一つに決められないらしく、隼人は思案顔だ。
ツナはコーヒーを淹れる傍ら、それを見て微笑んだ。
ところが、ビアンキが唐突に歩み寄ったかと思うと、隼人の手から広告を奪い取った。
「ケーキ屋なんかで買わなくても、隼人には私が特性ケーキを作ってあげるわ」
「いっ……いい! いらない!」
ぴょこんと逃げ出そうとして、側にいたヒバリに激突。
ツナが仲裁に入るより早く、ヒバリはひょいと隼人を抱き上げた。
じたばたと暴れるが物ともせず、ソファーに腰掛け、隼人を膝の上に座らせる。
「君、クリスマスに欲しいものある? 買ってあげるよ」
意外な展開だ。隼人も目をぱちぱちさせている。
「……でも、クリスマスプレゼントはサンタさんに貰うから」
今度は、隼人を除く全員が固まった。そうか、まだ信じているのか。
幸い、ヒバリは「……そう」と相槌を打ったきり何も言わなかった。
「あ! そーいえば、アジトには煙突ないから、サンタさん入って来れないかも……」
「大丈夫、煙突がない場合、サンタは換気扇から入ってくるから」
無茶な話である。隼人は目を丸くして「じゃあ、換気扇回ってたらどーなるんだ?」と尋ねた。
「その場合は当然、巻き込まれてグチャグチャに……」
「ストーップ!」
うっかりグロテスク路線に入りかけたので、ツナは慌てて割って入った。
当のヒバリはといえば、涼しい顔でそっぽを向いている。
「えっと……コーヒーが入ったから、皆適当に飲んで……」
溜息混じりに呼びかける。真っ先に隼人が反応し、足元にまとわり付いてきた。
「ちょっと待ってね。隼人の分はミルクを入れるから」
「10代目、クリスマスはお仕事お休みですか?」
もちろんだと言うと、隼人はぱっと顔を輝かせた。
「楽しみですね、クリスマス!」
確かに、隼人がいればパーティーも例年になく盛り上がるだろう。
ツナは笑って、隼人の頭を撫でた。
7
隼人はもぞもぞと布団から這い出した。休日の朝を満喫すべく、ツナはまだ眠っている。
起こさないよう気を付けないと。そうっと部屋を出ると、そこにはリボーンが立っていた。
「あ、おはよーございます、リボーンさん」
「ツナはまだ寝てるのか?」
頷こうとしたところで、目覚めたツナが部屋から出てきた。
「ふー、久々のオフだ!」
大きく伸びをしてから、「おはよう隼人、早起きだね」と頭を撫でられた。
解放感がみなぎっている。彼が嬉しそうだと、隼人も嬉しい気持ちになった。
「ツナ、コーヒー豆が切れたぞ。お前今日ヒマなら、隣町まで行って買って来い」
「はあ!?」
突然のリボーンの言葉に、ツナは怒った声を上げた。
「何でオレがそんなこと……雑用ばっかり押し付けんなよ!」
だが、リボーンは涼しい顔で、「隼人も連れてってやれば喜ぶぞ」と言い返す。
ぱっと表情を変えて、ツナは隼人の目線にかがんだ。
「隼人、オレと一緒に買い物行きたい?」
「連れてって下さるんですか?」
優しく笑ってから、ツナがリボーンの方を振り向く。
「じゃあ、隼人の欲しい物をたくさん買った後で、ついでにコーヒー豆も買って来てやるよ」
リボーンは「単純だな」と呟いた。
×××
おもちゃや本や、新しい服と靴。山のように買い込んだ荷物を、ツナが抱えて歩く。
「10代目、オレも持ちます!」
「いいのいいの」
高く積み上げられた箱が見るからに重そうなのに、ツナは楽しげだった。
それどころか、「他にもっと欲しい物はないの?」と訊いてくる。
「だってもう、こんなにたくさん……」
買ったばかりの黒い紐靴を履いて、隼人は有頂天だった。
それに、ツナと一緒に店を見て回るだけでも楽しい。
とあるショーウィンドウの前で、ふと足を止めた。石の専門店だ。
色とりどりの美晶に魅せられ、中を覗き込む。ツナが肩を叩いて、「入ろうか」と誘った。
「あ、そういうつもりじゃ……10代目!」
隼人は困って、ガラス戸の前に立ち尽くした。カウンターに荷物を預け、ツナはさっさと
店内へ入っていく。一通り見てから石を一つ購入するまで、さほど時間はかからなかった。
「これ、隼人が持ってて」
そっと、木の箱が手渡された。開けてみて「わあっ……」と声を漏らす。
淡い色をした、綺麗な結晶だった。
「薔薇石英っていうんだって」
「ありがとうございます……!」
ツナは「ううん」と首を振った。
「オレが、買ってあげたかったんだ。それだったら、大人になっても持ってられるし」
本当の親か兄弟のように、10代目は温かい。今まで出会った中で、隼人は一番彼が好きだ。
「ずっと大事にします!」と誓って、木箱を高く空へ掲げた。
8
パーティー会場は、着飾った男女で賑わっていた。人とすれ違う度に、香水の匂いがする。
傍目には分からないだろうが、皆マフィア関係者ばかりだ。
ツナもボンゴレファミリーのボスとして、その場に出席していた。
「沢田ちゃーん、久しぶり!」
声をかけられ振り向くと、トマゾファミリー8代目ボスの姿があった。
「ロンシャン、来てたんだ」
友人といって良いものか。本来、ボンゴレとトマゾは因縁の仲なのだ。
と言っても、ロンシャン自身はすこぶる友好的で、何を思ったかいきなり肩を組んできた。
「あっちにすごいローストビーフあるんだって! 一緒に食べよーよ!」
「一緒にって、ちょっ……」
相変わらず、テンションが高すぎてついて行けない。
どうしたものか困っていると、部屋の隅からピアノの音が聞こえてきた。
鍵盤に向かっているのは他でもない隼人だ。ツナは立ち止まってそちらを見つめた。
「すげー! あんなちっさい子が弾いてるよ!」
「静かにして」
片手でロンシャンの口をふさいだ。側で騒がれたら、ピアノが聞こえなくなってしまう。
音色に惹かれ、徐々に人が集まってきた。隼人はあどけなさの残る顔で、一心に曲を奏でている。
やがて最後まで弾き終わると、会場に大きな拍手が起こった。ツナも手を叩きつつ前に進み出た。
「いい演奏だったよ」
隼人がぱっと顔を上げる。手招きすると、椅子から飛び降り嬉しそうに駆け寄ってきた。
「この子、もしかして沢田ちゃんの子供!?」
「年齢的に無理だよ! 十歳しか違わないんだから」
大体、もしそうなら母親は誰なんだ。色々とツッコみたいが、隼人の前なので自粛しておく。
ふと時計を見ると、丁度鐘が鳴り始めた。
「じゃあ、オレ達はそろそろ帰ろうかな」
「え……」
隼人は戸惑った表情を見せた。その小さな手をそっと握り締める。
「何言ってんの沢田ちゃん! まだ十時だよ!?」
「うん……でも、隼人に夜更かしさせたくないんだ」
ボンゴレがお帰りと聞いて、周囲の注目が集まる。構わず、人の間をすり抜けた。
リボーンと意見が割れる所だが、ツナとしては、パーティーに隼人を連れ回したくはなかった。
ボンゴレ10代目が可愛がっている少年。いつ危険な目に遭ってもおかしくない。
――オレが守ってやらないと。建物の外に出た時点で、ひょいと隼人を抱き上げた。
「本当に良かったんですか?」
心配そうに顔を覗き込んでくる。ツナは「何が?」と聞き返した。
「まだお食事が済んでなかったんでしょう? お腹空いてらっしゃるんじゃ……」
予想しなかった言葉に、思わず呆気に取られた。しかし、隼人は真剣そのものである。
要するに、ツナが隼人を思うのと同じく、隼人もツナのことを気遣っているらしい。
「……そうだね、アイスクリームでも食べて帰ろうか。隼人も付き合ってよ」
ツナは機嫌よくそんな提案をした。
9
消毒液の臭いが、妙に心地よく感じる。昨夜からずっと、ツナは医務室で過ごしていた。
のろのろと右に寝返りを打つ。このまま少し眠りたい。
そう思ったところで、脇のカーテンが勢いよく開いた。
「オイ邪魔だ、いつまでベッド占領してんだ」
専属医のシャマルである。邪魔と言われて、ツナはむっと顔をしかめた。
「別にいいじゃん……他に患者いないんだし」
「ボンゴレのボスが、風邪くらいで休むんじゃねーよ。どけ」
しかし、ツナは動かなかった。37℃弱だけれど、確かに熱があるのだ。
こんな時くらい、休ませてくれてもいいはずじゃないか。それに実際、体がダルい。
「いいから寝かせてよ、もう……」
頑固に言い張ると、シャマルは呆れたように溜息をついた。
「仕方ねえ、ベッド貸すだけだぞ。オレは男は診ねーからな」
「ああ、寧ろありがたいよ。しばらく治んない方が、休めてラッキー」
「……リボーンに言ったら殺されるぞ」
ツナはクスクスと笑った。確かに、本気で殺されかねない。リボーンはそういう奴なのだ。
枕を整えてさあ寝ようとした時、今度は部屋の戸が開いた。
「10代目……」
一瞬、本当にリボーンが来たかと思って身構えた。隼人の顔を見て、ほっと脱力する。
と同時に、ツナは厳しい表情で口を開いた。
「来ちゃダメって言ったろ? 風邪がうつると大変だから」
叱られて、隼人はびくっと身をすくめる。何か言いたげな様子だったが、すぐに俯いてしまった。
「さあ早く、自分の部屋に戻るんだ」
「嫌です……!」
隼人は突然駆け寄って、ツナの肩に抱き付いた。ツナは驚きつつも、薄い背中を抱き返した。
「……どうしたの? 今日は随分と聞き分けがないね」
嫌だ嫌だと泣きじゃくる。こんな隼人を見るのは初めてだった。年の割にしっかりした子が、
こうも泣くからには理由があるのだろう。――寂しかったのかもしれない。
ただでさえ、仕事ばかりで構ってやれないのに、昨日は部屋にも帰らなかったから。
そう思って、ツナはそっと隼人の髪を撫でた。
「10代目、死んじゃやだあっ……」
「……え?」
不穏な単語を耳にして、ツナはぴたりと動きを止めた。
隼人の方は相変わらず、ぽろぽろと涙を零している。
「ちょっと隼人、落ち着いて……。別に死なないから、ね?」
大体、死ぬ理由が分からない。戸惑っていると、隼人は大きくしゃくり上げた。
「だって、リボーンさんがっ……10代目は重い病気で、死んじゃうかもしれないって……!」
一体何を言い出すんだ、アイツは。これも暇潰しの一種だろうか。
お陰で、隼人が小さな胸を痛めているというのに。
「隼人、泣かないで。オレは死んだりしないから」
これ以上怖がらせないように、ツナは優しい声で言った。
「……ほんとですか?」と隼人が顔を上げる。
「もうすっかり良くなったんだ。午後からちゃんと仕事に戻るよ」
すると、隼人も少し安心したのか、こくんと頷いて涙を拭った。
一部始終を見ていたシャマルは、「リボーンに一本取られたな」と呟いた。