小話2759

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11 マフィアツナ×仔獄♀



 某実業家の屋敷に、マフィアの要人が訪れていた。
 他でもないボンゴレのボスと、お目付役のリボーンだ。
 時刻は午後十時を回った頃。屋敷の主人は緊張気味に、書類へのサインを済ませた。

「じゃあ、これからよろしくお願いします」

 ツナが軽く頭を下げる。ボス候補となった当初に比べて、彼は見違えるほどの成長を遂げた。
 尤も、リボーンの目からすれば、まだまだ未熟な面も多いのだが。

「はっ……。我が社にとっては、大変有難い話です。ボンゴレと手を結ぶとは……」

 主人はそこで時計に目を遣り、ふと言葉を切った。

「娘を連れて参りましょう。それとも、日を改めましょうか」

 すると、ツナは初めて笑みを浮かべた。どちらかと言えば冷たい微笑。
 リボーンはすぐに、その胸の内を読み取った。

「契約が成立した時点で、彼女はボンゴレの人間です。後はこちらで処理します」

 唖然としている主人を置いて、ツナはさっさと立ち上がる。振り向きざまに、「部屋まで
 案内して下さい」と促した。主人は自分の立場に気付き、ただ深々と頭を下げた。


×××


 案内の者を去らせて、ツナは徐に扉を開けた。いかにも女の子らしい部屋だ。
 しかし、ベッドの上に彼女の姿はなかった。薄暗い室内を見回すと、窓辺に白いものが立っている。
 ナイトガウンを羽織った少女は、気配に気付き、こちらを振り向いた。

「ボンゴレ……10代目……」

 丸い唇から、子供の声が漏れた。まだ十歳にも満たない幼さなのだ。
 ツナは優しく微笑んで、彼女の所に近寄った。

「君の名前は?」
「ハヤト、です」

 ツナは頷き、ハヤトの服に手をかけた。ゆっくりした動作で、襟の形を直してやる。
 彼女の細い首は、文字通りツナの手中にある。リボーンは淡々と分析した。
 グローブを使うツナにとって、手は凶器にもなり得るのだ。
 そんなことを知ってか知らずか、ハヤトの大きな瞳に不安の色がよぎった。

「何も心配しなくていい。お姫様みたいに、幸せにしてあげるからね」

 数人の部下が、部屋の中に入ってきた。怯えるハヤトをなだめて、ツナは部下に指示を出す。

「ハヤト嬢を車へ。先に、ホテルへお連れしろ」

 彼らはハヤトを連れて、正面玄関へと向かった。
 その場には、ツナのリボーンの二人だけが残された。



「……まるで、生きた宝石だね。そう思わないか?」
「アイツは人質だぞ。必要以上に接触を持つな」

 ぴしりと忠告する。ツナは一瞬沈黙したが、すぐに首を振った。

「あの子は、オレが手元で育てるよ」

 いい加減にしろと説教すれば、いつになく真剣な顔で「考えがあるんだ」と言う。
 話くらいは聞いてやろうと、先を促す。

「骨の髄までボンゴレの人間に仕上げてから、政界にでも嫁がせるつもりだ。きっと役に立って
くれるよ」

 数年もすれば、ハヤトはもっと綺麗になるだろう。それだけ利用価値も上がってくる。
 ツナにしては悪くない意見だが、一つだけ、重大なことを見落としていた。
 ――ハヤトが年頃の美女になった時、果たしてツナは彼女を手放せるだろうか。

「まあ、多分無理だろうな」

 これで結構、ツナは色好みなのだ。リボーンは溜息をつき、「まだまだ甘いな」と呟いた。










12 マフィアツナ×仔獄♀



 朝食を取ってすぐ、ツナはホテルを後にした。とある商談の帰りだった。
 数人の部下だけを連れて、身軽に車内へ乗り込む。
 ハヤトが待っているから、早く帰らないと。あの綺麗な少女は、今ではすっかりツナに
 懐いていた。ボンゴレの庇護下で育つ、まさに生きた宝石だ。
 ケータイの音がして、はっと我に返る。慌てて耳に当てると『ちゃおっス』と声がした。

「リボーンか。今、ホテルを出たところだ」
『その様子じゃ、上手く行ったみてーだな』

 ツナは声を立てて笑った。いつまでもダメツナのままじゃない。
 若きボスとして、活躍中の身である。

「そっちは特に変わりはないか?」
『一つ、いい知らせがあるぞ。ハヤトに縁談が来てる』
「は……?」

 一体何を言っているのか、咄嗟に判断しかねた。
 ツナの動揺など構わず、リボーンは勝手に話を進める。

『しかも、相手はこの国の大臣だ。申し分ねーぞ』
「ちょ、ちょっと待てよ! 縁談って言っても、ハヤトはまだ10才だろ!?」

 リボーンは平然とした声で、『ロリコンって奴らしいな』と言い放った。
 そんな無茶な話があるだろうか。まだ、性の兆候もない少女なのに。
 モヤモヤした焦燥に駆られて、ツナは一方的に電話を切った。


×××


 昼前にはアジトに着いた。予定より早い帰還に、ファミリーの皆も驚いた様子だ。
 出迎えの中にハヤトの姿はなかった。中庭や書斎を探してみるが、やはりどこにも見当たらない。

「ハヤトをここに呼んで」

 部下の一人にそう命じる。彼は落ち着き払って、「お勉強の時間ですが」と答えた。

「いいから、早く連れて来い」

 ボンゴレの名にふさわしい令嬢にするべく、ハヤトには教育を施してある。
 期待に違わず、彼女はよく勉強した。邪魔するのは気が引けるが、今回ばかりは話が別だ。
 彼女は無事だろうか。あどけない笑顔が脳裏に浮かぶ。
 階段を駆け下りる音がして、ハヤトがこちらにやって来た。

「お帰りなさい、10代目!」
「ただいま。いい子にしてたか?」

 ツナはひょいとハヤトを抱き上げた。幼い唇に、何度もキスを落とす。
 ハヤトはくすぐったそうに身をよじった。

「オレの留守中、何か怖いこととかあった?」

 ちょっと首を傾げてから、ハヤトは「いいえ」と答えた。
 まだ、例の話は本格始動していなかったらしい。ほっと胸を撫で下ろす。



 少女を抱いたまま頭を撫でてやっていると、不意にリボーンが現れた。

「相変わらず、猫可愛がりだな」

 労いの言葉もなく、いきなり核心を突く。しかし、ツナも負けてはいられない。
 真正面から彼を見返し、きっぱり言ってやった。

「ハヤトはまだ子供なんだ。例の縁談は、丁重に断っといてくれ」

 その子供に執着してんのはどこのどいつだ。
 そう言いたげな目をして、リボーンはハヤトに視線を移した。

「10代目、縁談って……?」
「いや、何でもないんだよ」

 ツナはやんわりと話題を打ち切った。「予想道りの展開だぞ」とリボーンが呆れて呟いた。










13 アニメ標的39より



 暗い森を駆け抜ける二つの影。目的は仲間の救出――ツナはいつになく緊張していた。
 一方、リボーンはいつも通り冷静だった。

「まだ、そう遠くには行ってねーはずだぞ」

 確かに、ボンゴレ城はイタリアきっての要塞だ。そう簡単に逃げられるはずもない。
 実力で言えば、こちらが上だということも分かっていた。
 ……いや、それでも不安な気持ちが収まらない。ツナは黙って唇を噛んだ。

「バカツナめ、焦りは禁物だ」
「分かってるよ! でも……!」

 思わず声を荒げたものの、ツナはぶんぶんと首を振った。
 リボーンの言う通り、少しは頭を冷やさなければ。仲間の命がかかっている。

「……オレのせいなんだ。オレが最初から、獄寺君を信じてあげていたら……」

 ツナを慕って、いじらしいまでに忠実だった彼。
 どうか、無事でいてくれ。神に祈るような気持ちだった。


×××


「オレを、殺そうとしてる奴がいる……?」

 療養中のはずの部下が突然やって来て、何を言い出すかと思えば。
 俄かには信じ難い報告だった。ツナは呆気に取られて、まじまじと獄寺を見つめた。

「はっきりした証拠は掴んでませんが……オレにはそうとしか思えないんです」

 用心深く、獄寺は声を潜めた。真剣そのものの表情だ。

「ウチの下っ端が、不審な奴らを目撃してます。もしも、10代目の命を狙ってるとすれば……」

 ツナはぷっと噴き出した。それだけで暗殺計画とは、思い込みというものだろう。
 獄寺は「笑い事じゃないっスよ!」と真っ赤になった。

「ごめんごめん。獄寺君が、あまりにも心配性だからさ」

 ふっと一息ついて、ツナは笑うのをやめた。――そんなことより、君は怪我を治さないと。
 獄寺は現在、シャマルの治療を受けている身なのだ。余計なことで動き回っては傷に障る。
 優しくそう諭したが、獄寺はまだ心配そうな顔をしていた。


×××


 ライバルマフィアによるツナ暗殺計画が露見したのは、つい昨日のこと。
 獄寺はといえば、既に行動を起こしていた。たった一人で、敵の所に乗り込んだという。

(怪我してるくせに……! 何でそんな、無茶ばっかするんだよ!)

 不意に衝撃音が響いた。「泉の方からだ」とリボーンが指差す。
 慌てて駆け付けると、そこには山本と了平の姿があった。
 どうやら、勝負は着いたようだ。ツナはほっとして、二人の側に近寄った。

「来るんじゃねえ! コイツがどうなってもいいのか!?」

 びくりとして立ち止まる。見れば、獄寺の喉にナイフが突き付けられていた。
 敵は最後の意地で、人質を取ることを考え付いたらしい。

「くそっ、極限に卑怯だぞ!」
「獄寺の奴、怪我さえなけりゃ……」

 敵の腕の中で、獄寺はぐったりとしていた。薬の副作用だろうか。
 熱に浮かされたような目をして、獄寺は途切れ途切れに言葉を紡いだ。

「10代目、オレのことは気になさらないで……どうか……っ」

 ツナの胸の中で、何かが大きく音を立てた。
 ――見捨てるなんて、できるわけないじゃないか。オレが守ってやらないと。
 死ぬ気の炎が燃え上がる。敵が一瞬怯んだ隙に、ツナは地面を蹴って駆け出した。










14 セレブツナ×ホテルボーイ獄



 凝ったデザインのシャンデリアを透かして、薄青の光が見えた。外は快晴だった。
 部屋の奥はタイル張りで、歩くと軽やかな音が響く。某ホテルのスイートルームだ。
 知人の紹介で、夏休み中ここで働いている。シーツの取替えを済ませ、獄寺は浴室に向かった。

 乳白色のバスタブに金の蛇口。とはいえ、掃除の方法は普通と変わらない。
 スポンジで鏡を擦っていると、側に腕時計があるのに気が付いた。

(置き忘れたのか……)

 濡れないよう、そっと棚に移す。時計がなくて、彼は今頃困っているかもしれない。
 宿泊者の名は沢田綱吉という。かのボンゴレ社の御曹司だ。現社長が高齢なため、既に経営の
 一部を任されているとか。彼は仕事の関係で、お目付け役と共にこのホテルに滞在していた。
 プレイボーイではないが、女にはさぞモテるだろう。

 ――今度の晩餐会、誰をエスコートなさるのかしら?
 ――恋人はいらっしゃらないみたいよ。私達にも、チャンスはあるんじゃない?

 フロント係がそう言うのを小耳に挟んだ。週末、地元の金持ちが晩餐会を開くのだ。
 バスタブを磨き終えて、シャワーに手を伸ばす。その時、突然浴室の戸が開いた。

「え……獄寺君!?」

 彼の声に驚いて、獄寺はまともにシャワーの水を浴びてしまった。

「ごごごゴメン! 覗くつもりはなかったんだ!」
「へ……? オレ、掃除してただけなんスけど……」

 彼は彼で、気が動転しているらしい。他人がこの部屋の風呂を使うはずもないのに。
 獄寺は思わず笑みを浮かべた。

「もしかして、腕時計をお探しですか? そこに置いてありましたよ」
「ああ、ありがとう……って獄寺君、びしょ濡れじゃないか!」

 確かに、シャツが濡れていた。獄寺は特に気にせず、「すぐ乾きます」と答える。
 すると、彼は顔を赤くして、バスタオルを手渡してくれた。

「……肌が透けてる」

 少しびっくりしたが、獄寺は素直にそれを受け取った。親切な人だと密かに感嘆する。
 とりあえず、バスタブを洗い流してから外に出た。
 彼は心配そうに小首を傾げて、「換えの服は持ってるよね?」と尋ねた。

「はい。……綱吉様って、素敵な方ですね」

 出し抜けにそんなことを言われて、彼は目を丸くした。ちょっと無作法すぎたかなと思う。
 でも、正直な気持ちだったので、獄寺は敢えて先を続けた。

「親しみやすい御人柄だって、皆言ってます。ほら、もっと高級なホテルがあるのに、ウチを
お選びになったでしょう?」
「それは、君に一目惚れしたから……!」

 しまったという表情で、彼はばっと口を覆った。一呼吸置いて、獄寺は数回瞬きをした。
 一目惚れとは、一体何のことだろう。
 彼は曖昧に苦笑してから、不意に獄寺の手を取った。

「……あのさ。週末のパーティー、オレと一緒に来てくれないかな?」

 触れた指先は優しいけれど、真剣さが伝わってくる。今度は、獄寺が目を丸くする番だった。










15 10年後



 獄寺が帰還したという。危険を伴う仕事だったが、無事で何よりだ。
 すぐに、彼の部屋に駆け付ける。戸を開けると、上着を脱いでいる後姿が見えた。

「お帰り」

 獄寺ははっとした様子で振り向いた。張り詰めた空気が漂う。
 良い報告は聞けそうにないと、ツナは瞬時に悟った。

「やはり、実態は掴めないままです。一つだけ言えるのは……」

 ここで一旦言葉を切り、獄寺は目を伏せた。

「ボンゴレ狩りが、まもなく始動するでしょう。今のうちに食い止めなければ」

 尤もな意見だが、ツナとしては、獄寺の体の方が心配だった。
 ただでさえ疲れが溜まっているのだ。これ以上無理をさせたら、きっと壊れてしまう。

「獄寺君、少し休んで」

 できるだけ優しく、諭すように言う。獄寺はぎゅっと唇を結んだ。

「顔色が悪いよ」
「休むなんて……とてもそんな気になれません」

 確かに、獄寺ならそう言うだろう。放っておいたら無茶を重ねるばかりなのだ、彼は。
 愛しさと切なさを同時に感じながら、ツナは獄寺を抱き締めた。

「それでも休んで。オレのために」

 獄寺は一瞬息を呑んだが、強情に首を振った。

「……嫌な予感がするんです」

 微かに声が震える。スーツ越しにも分かるほど、獄寺の体は冷え切っていた。
 子供のように、全身で不安を訴えているのだ。

「ミルフィオーレの勢力は異常です。あなたにもしもの事があったら……オレは……」

 銀の髪に触れると、徐々に肩の力が抜ける。獄寺は俯いたままツナに寄り添った。
 ツナは黙って、しばらく獄寺の髪を撫で続けた。

「ねえ、もうすぐクリスマスだね」

 びくりとして獄寺が顔を上げた。綺麗な目が、縋るような光を帯びる。
 その視線を受け止め、前髪をそっとかき分けた。

「イブは一緒に過ごそう。ツリーは出せないけど、いっぱい美味しいもの食べてさ」

 外は満天の星が輝いていた。二人で徐に窓を見上げる。
 この先に待ち構えるのは、悲しみや苦しみだけではないはず。そう希望を持って。

「あなたはいつもそうやって、オレを救ってくれるんですね」

 獄寺がぽつりと呟く。ようやく、頬に赤みが差してきた。

「君を口説くには、これが一番だって知ってるんだ。前にも一度、花火見たさに戻ってきた」
「そんなこともありましたね……」

 思い出して微笑み合った。はにかんだように笑う、彼のことが大切だった。


×××


 向けられた銃口を、静かに見返す。逃れる術はなかった。
 ちらちらと降る雪の中、超直感で自らの死相が見えた気がした。

「ボンゴレ10代目」

 相手の男が一歩踏み出す。

「何か、言い残すことは?」
「届くものならば……」

 ツナは素直に答えつつ目を閉じた。聖夜の鐘に乗って、思いが届くものならば。
 獄寺君――オレは今、死にたくないと思っている。
 イブは一緒に過ごそうって言ったね。約束を守ってやりたかった。
 はにかんだように笑う、君のことを愛していた。
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