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6 ツナ&リボーンバースデー'06
ホームルームが終わって、ツナは獄寺に声をかけた。
「獄寺君、一緒に……」
「あ、オレちょっと用があるんで! 失礼します!」
一緒に帰ろう、と続けるつもりだったのだが、獄寺は焦った様子で去ってしまった。
何だか避けられているようで、ツナは顔を曇らせた。最近、獄寺の態度がおかしい。
話しかけても反応が鈍いし、考え込んでいることが多い。隠し事でもあるのだろうか。
――いや、ちょっと待てよ。
(こんな展開、前にもあった……?)
はっと思い当たったツナの背後に、小さな影が現れた。
「獄寺は誕生祝いの準備をしてるんだぞ」
「なっ……! 何でまた、獄寺君がわざわざお前の誕生日祝うんだよ!?」
聞き捨てならない台詞を聞いて、ツナは顔色を変えた。
今日はリボーンの誕生日。だがプライベートで祝うのは、以前のパーティーの時とはワケが違う。
そんなに親しいというのか。獄寺とリボーンが、ツナを差し置いて。……そんな、まさか。
答えないままニヤニヤ笑うリボーンを見て、ツナは妙な胸騒ぎを感じた。
夜になって、獄寺がやって来た。インターホンを聞いて出たツナに、紙袋が差し出される。
「コレ、リボーンさんに渡してもらえますか?」
「あ、うん……」
ツナは軽くショックを受けた。誰と親しくしようが獄寺の自由。それは分かっているのだけれど。
「サンキュー獄寺、頼んでたコーヒー豆だな」
ツナの後から出てきたリボーンは、目当ての品を受け取ると、さっさと中に入ってしまった。
獄寺と二人きりになって、何故か気まずさを感じる。
「獄寺君ってさ……オレとリボーン、どっちが好き?」
「え?」
「家まで誕生日プレゼント持ってくるくらい仲いいなんて、知らなかった……」
顔を上げると、獄寺が驚いた表情でこちらを見ていた。
「あ……。いや、今のなし! ……忘れて!」
我に返ったツナは、汗が吹き出るのを感じた。一体、何を口走っているんだろう。
我儘? 独占欲? それとも嫉妬? いずれにせよ、人には言えない恥ずかしい感情。
「アレは、この前ダイナマイトの仕入れに行った時に、ついでに頼まれてたんです」
やっと聞き取れるくらいの声だった。獄寺はツナの手に、綺麗な包みを押し付けてきた。
「……ちょっと早いけど、誕生日おめでとうございます」
指先が触れ合ったその瞬間が、強烈な色彩を持って胸を刺す。
しっかり数秒固まったが、要するに、自分はリボーンにからかわれていたらしい。
何とか「ありがとう」と言ったものの、嬉しいかどうかなんて分からなかった。
――目が眩みそうだ。
「あのっ……10代目が一番、ですから……」
聞き返す暇も与えず後ずさり、「わ、忘れて下さい! おやすみなさい!」と逃げるように
獄寺は帰って行った。
「……無理だよ。忘れるなんて」
包みの中身はブレスレットだった。彼らしい趣味だと思って、初めてツナは幸福に酔った。
7 ツナ獄♀・「ローマの休日」パロ
とうとう、アパートの部屋の前まで来てしまった。
このまま連れ込んで良いものだろうか。隣りに寄り添う、可憐な少女。
「……ねえ、やっぱりオレ、送ってくよ。君、どこから来たの?」
すると、少女はこちらを見上げてふわりと笑った。
「お城からですー」
完全に酔っ払っている。ツナは溜息をついた。
仕事から帰る途中。通り沿いのベンチで、若い娘がスヤスヤ寝ているのを発見したのだ。
何て無防備な。ツナは少女を揺り起こした。夜も更けたから、早く帰れと言うつもりだった。
しかし、酒が入っているのか、少女は足元もおぼつかない。
送って行こうと住所を訊いても、「お城に住んでいる」と言い張る始末。
「はいはい、じゃあお姫様、今度から酒は飲みすぎないようにしようね」
諦めてドアノブを回した。今夜はここに泊めるしかない。
一旦声をかけた手前、放り出して自分だけ帰るなんてことはできなかった。
美少女と一つ屋根の下だなんて、かなり辛い状況だけれど。
頑張れ理性。負けるな理性。少女を迎え入れつつ、胸の内でエールを唱える。
ツナはクローゼットを探って、真新しいパジャマを取り出した。
「これに着替えて、大人しく寝ててくれるかな。オレはシャワー浴びてくるから」
「はーい」
素直な返事に安心したのも束の間、ぐいと袖口を引っ張られる。
「……どうしたの?」
「着替えるの手伝って。脱がせて下さい」
至って無邪気に、少女は言った。
「な、な、何言って……!?」
「だって、一人で着替えたことないんですー」
小首を傾げる仕草にぐらりと来た。が、何とか良心を奮い立たせる。
純真な目だった。誘ってるつもりはないのだろう。見てれば分かる。
「あのね……。オレは手伝うワケにはいかないよ。子供じゃないんだから、甘えちゃダメ」
あやすように頭を撫でて、ツナはそっと少女を振り払った。
(キツいな……思ってた以上に……)
風呂場の戸を後ろ手で閉め、何となく遠い目になる。
――朝まで持つのかな、オレ。
少し落ち着いてからでないと、寝室には戻れそうもなかった。
×××
シャワーを終えて出てきた時、少女はベッドで丸くなっていた。愛らしい寝顔だ。
明日になったら、家まで送り届けてあげないと。
服装から、育ちの良いお嬢さんであることは伺えた。親も心配しているだろうに。
ツナはテレビを付けた。青白い光と共に、ニュース番組の抑揚のない音声が流れ出す。
この街に滞在中だった小国の姫が、先日から行方不明になっている、とのこと。
こっちはこっちで大変そうだが、まあ他人事だ。グラス片手に聞き流していた。
しかし。姫の顔写真が映った瞬間、ツナは思わず、飲みかけのワインを噴き出した。
テレビに大きく映し出されたのは、間違いなく、今この部屋で眠っている少女の顔だった。
「ハヤト姫……?」
嘘だろう。まさか、本当にお姫様だったなんて。
だが、ハヤト姫は名前を呼ばれてもぞもぞと反応し、眠そうな声で「はぁい」と答えたのだった。
8 コミックス表紙について
学校からの帰宅途中、獄寺は商店街をぶらついていた。
何か買う目的があるわけでもない、ただの暇つぶしである。
「あ、ハヤト兄!」
後ろから呼び止める声がした。振り向くと、小学生くらいの少年が駆け寄ってくるのが見えた。
「ランキング小僧か」
こんな所で何をしているのだろう。神出鬼没な奴だ。
フゥ太は獄寺のすぐ側まで来たかと思うと、丸く澄んだ目でじっと顔を見つめてきた。
「……何だ? 何か付いてんのか?」
「ううん、そうじゃなくて。ねえ、ハヤト兄の唇って‘不埒’なの?」
獄寺は思わず「は……?」と聞き返した。フラチ? フラチって……あの不埒?
「どっ、どこで覚えてきた、そんな言葉!」
赤面しつつ問いただすも、フゥ太は至って無邪気な表情だった。
「ツナ兄が言ってたよ。ハヤト兄のこと'不埒な唇'って」
×××
「10代目ーっ!」
階段を駆け上がる音がする。自室にいたツナはそれを聞いて立ち上がり、獄寺を中に迎え入れた。
「どうしたの、そんなに慌てて」
「ランキング小僧に何を吹き込んだんスか!」
真っ赤な顔で詰め寄られる。
その近さにどぎまぎしながら、ツナは「……ああ、あのことか」と呟いた。
二日前のこと。一体どこで入手したのか、フゥ太はツナの部屋に、他でもない
REBORNのコミックスを持ち込んでいた。
「わー、皆カッコイイ! 特に9巻のツナ兄!」
中味を読むというよりは、単に表紙を眺めて楽しんでいるらしい。
「あーまた散らかして……。後で片付けとけよ」
だが、フゥ太は聞いていない様子で「んー、でも納得いかないな……」と何やら唸り始めた。
「……何が納得いかないんだ?」
「2巻表紙のハヤト兄だよ。顔の下半分が、丁度陰になって見えないでしょ?
せっかく綺麗な顔なんだから、ちゃんと見せてあげればいいのに」
確かに、フゥ太が言うのも尤もだ。しかし、これには事情があった。
コミックス表紙にタバコを出すことへの問題視である。が、スモーキン・ボムの異名を取る彼に
吸わないという選択肢はなく、口元を隠すことでごまかしたのだ。
「何でなのかな……」と考え込むフゥ太に、ツナはそっと苦笑した。
「……で、フゥ太に理由を教えるのに、一から説明するの面倒だったからさ。
‘獄寺君は、不埒な唇を隠すためにあんなカッコしてるんだよ’って要約しちゃったんだよね」
獄寺は「なっ……!」と声を上げた。
「そ、それは要約じゃないでしょ!? ニュアンス変わってるじゃないスか!」
そう言われてみればそうかもしれない。
さして気にしないツナの隣りで、獄寺は頬を赤く染めたままへたり込んだのだった。
9 伯爵ツナ×声の出ない獄
gennaio,
febbraio, marzo,
aprile…
右手でペンを掴み、獄寺はたどたどしく字を書いた。
「うん、ちゃんと書けてる。よく覚えたね」
一通り確認してから、ツナが満足げに微笑む。
やった、褒めてもらえた。獄寺は嬉しくてぱっと頬を染めた。
城には金色の光が差し込んでいた。蔦の絡んだ窓辺で、朝露がしっとりと光る。
テーブルに置かれたオルゴール時計。湯気を立てるティーカップ。
数週間前には想像も付かなかったくらい、それは穏やかな光景だった。
元々、獄寺は下町の生まれだ。下水の臭いが染み付いた、水はけの悪い土地である。
その日暮らしの生活だった。口のきけない獄寺を、雇ってくれる者などいなかったのだ。
ある日、震えながら道にうずくまっていると、一台の馬車が通りかかった。
視察に来た若き伯爵だという。彼はこちらに気付くと、慌てて馬車を止め、雨に濡れるのも
構わず駆け寄ってきた。
「知らなかった……。こんな風に、苦しんでる人がいるなんて」
茶色の瞳でじっと見つめてから、彼は獄寺を抱き起こした。
初めて触れた温もりに、ありがとうの一言さえ言えない。獄寺はぽろぽろと涙を零した。
(貴族なんてロクなもんじゃないと思ってたけど、この人は違う)
城に連れ帰って、暖を取らせ食事を与え、さらには字まで教えてくれた。
自分もいつか、この人の役に立ちたい。ツナの横顔を見ながら、獄寺はそう思うのだった。
ノックもなしに部屋の戸が開いた。お目付け役のリボーンだ。
「シャマルと連絡が取れたぞ。二、三日後には、こっちに来るそうだ」
「本当に? ありがとリボーン!」
こんなに喜ぶなんて、何か事情があるのだろう。獄寺は目をぱちぱちさせた。
リボーンはニヤリと笑い、去って行った。
「シャマルっていうのは、オレの知り合いでね。凄腕の医者なんだ」
そう説明されて、獄寺は小首を傾げた。ツナがふっと真顔になる。
「もしかしたら、君の声、治せるかもしれない」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
熱病に侵され声を失ったのは、まだ幼い頃のことだ。再び、喋れるようになるというのか。
「基本的に、女しか診ない人なんだけど……そこは何とか説得するよ」
獄寺は我に返り、ぶんぶんと首を横に振った。
(そんな金、とてもじゃないけど払えない!)
医者に診てもらうためには、高い金が必要だ。
自分で払えるはずはないし、これ以上ツナの世話になるわけにもいかない。
獄寺の心情を察したのか、ツナは「大丈夫だよ」と優しく言った。
「オレも聞いてみたいんだ。君の声」
愛しげに、唇を指でなぞっていく。獄寺は、心臓がびくんと跳ね上がるのを感じた。
何て色っぽいんだろう。これが貴公子というものか。
「……君ってさ、素直なんだね」
ツナが小さく溜息をついた。
「少しは抵抗してくれないと、こっちもその気になるっていうか……」
ゆっくりと指先が離れていく。獄寺はきょとんとツナを見返した。
ツナは困ったように笑っていて、微かに耳が赤かった。
10 「バスカヴィル家の犬」パロ
荒野に生温い風が吹き渡った。日は傾き、空が刻々と色合いを変えていく。
獄寺は丘の上から、一軒の小屋を見下ろした。
廃墟と化したその場所に、出入りしている人間がいるらしい。例の脱獄囚だろうか。
(10代目の代わりに、オレがしっかりやらないと……)
今回の依頼は地方の領主が持ち込んだものだが、ツナは別の事件で忙しく、ベーカー街を
離れられない。代理として、助手の獄寺が依頼主のもとに赴いた。
依頼主は何者かに命を狙われているのだ。
調べていくうちに浮かび上がったのは、この辺りに潜む脱獄囚の存在。
もし、この小屋が奴の寝床だとしたら、捜査を進展させる重要な鍵だ。
獄寺は室内に入り、証拠となりそうなものを探した。成功すれば胸を張ってツナに報告できる。
作業に没頭するあまり、周囲への警戒が疎かになった。ふと、人のやって来る気配を感じる。
思わず、獄寺は身を竦めた。
「出ておいで、獄寺君。夕焼けが綺麗だよ」
「じゅ、10代目!?」
聞き間違えようのない声だ。獄寺は慌てて小屋から飛び出した。
ツナは微笑みながら、夕日を浴びてそこに立っていた。
「驚かせないで下さいよ! こっちに来てらっしゃったなんて、知りませんでした」
「オレもびっくりしたよ。この隠れ家が君に見つかったなんて想定外だ」
ツナの口ぶりに、ちょっと首を傾げる。何だか話の流れが見えない。
獄寺はおずおずと、「……ここって、敵のアジトじゃなかったんスか?」と尋ねた。
「実は、オレの隠れ家なんだ。敵に感付かれないように、こっそりと捜査を進めてたんだよ」
そんなことは初耳だったので、獄寺は呆気に取られた。
全ては作戦の内だなんて、一言で済ませられる問題ではない。
だって、ツナが来られないというから、代理として恥ずかしくないよう頑張ったのに。
自分は単に、敵を泳がすためのコマに過ぎなかったというのか。
「ロンドンでの事件が忙しいから、こっちには来られないって仰ったのに……。あれは
嘘だったんですね?」
ツナは言葉に詰まった様子だ。図星ということだろう。
――あんまりだ。こっちは真面目に捜査して、報告書まで作っていたというのに。
「酷いです、10代目……! オレ、お役に立とうと必死だったんスよ! 少しは信用して
下さったって……!」
獄寺はすっかり拗ねて、ツナの肩をぱしぱしと叩いた。
10代目は結局、オレのこと信用できないんですか。声が微かに震えてしまう。
ツナは苦笑し、獄寺を抱き寄せた。
「信用してるよ、獄寺君は有能だからね。ただ、君が危険な目に遭うといけないから、万一の
場合に備えて見守ってたんだ」
そう囁かれると、怒りが持続しないから不思議だ。頬がかっと熱くなる。
一方ツナは、腕を解くや否や、頭を切り替えて事件の整理を始めた。
「せっかく合流したことだし、ここから先は二人で捜査を進めよう。協力してくれる?」
すっかり彼のペースだ。こちらに断る術はない。
ずるい人だと思いつつも、獄寺は「はい」と言って頷いてみせた。